この記事は,スキー理論のコラム第3弾になります.コラムのまとめはこちらの記事をご覧ください.今回は,スキーヤーにはたらく力ついてお伝えしていきます.
スキーは斜面を滑り降りるスポーツですが,その力学的なメカニズムを知ることは非常に重要です.自分の操作とスキーの挙動が一致するように,プロスキーヤーは日々練習を重ねています.スキーヤーにとっては,スキーの物理的な理解が必須です.
そこで,この記事では身体と板を1つの質点(質量が1箇所に集まっている点)とみなして,ターン中のスキーヤーにどのような力が加わっているのかを解説していきたいと思います.
ターン中のスキーヤーについて,どのような力が働いているのかについて解説していきます.
物理的な前提
このセクションは,スキーとは直接関係ありませんので,必要でない方は無視して次の「スキーヤーに働く力」に移動してください.
さて,スキーヤーにはたらく力を考える際には,どのような系から事象を観測するかという点が重要になってきます.たとえば,遠心力というのは非慣性系(慣性の法則が成立しない系=加速する物体の上で観測する系)で考えた際の仮想的な力のことを指します.
実際,ターン中にはたらく力を考える際には,スキーヤーと同じ系に乗って考えると分かりやすいので,以下では非慣性系における話をしていきます.
スキーヤーに働く力

滑走中のスキーヤーには,「重力」「遠心力」「雪面からの抗力」がはたらきます.このうち,重力は常に地球の中心向き,遠心力はターンの外側向きの力になります.
スキーヤーは常に雪面とくっついていますので,①の視点から見たときは力は全てつりあっています.問題となるのは,②の視点と③の視点です.それぞれ詳しく見ていきましょう.
②の視点

②の視点から見ると,スキーヤーは雪面からの力を向心力とした円運動をしています.また,ターン後半の方が重力の成分が遠心力の味方をしてしまうため,より強い雪面からの力がかかります.
③の視点

ここからは,スキーヤーを質点ではなく剛体として考えていきます.つまり,スキーヤーはスキー板と雪面の作用点を中心にして,重力と遠心力のトルク(モーメント)がつりあうように重心を移動させる必要があるのです.
仮に,オレンジの状態で遠心力のトルクと重心のトルクがつりあっている状態だとします.一般に,遠心力は「重さ・速さの2乗」に比例し,「回転半径」に反比例します.
ということは,スキーヤーの速さが増していったり,スキー板がたわんで回転半径が小さくなったとき,遠心力は増加します.そのとき,重心は黄色の矢印の位置に移動させる必要があります.なぜなら,黄色の矢印の場所に重心を移動させることで,重心のトルクの腕を長くすると同時に,遠心力のトルクの腕の長さを短くできるからです.
遠心力が減少した場合も同様です.青い矢印の場所に重心を移動させることで,重力のトルクと遠心力のトルクをつりあわせます.
まとめ
[1]”日本スキー教程.” 山と渓谷社(2018)
[2]”スキーの科学とスノーボードの科学.” 岡部(2017)