この記事は,スキー理論のコラム第4弾になります.コラムのまとめはこちらの記事をご覧ください.今回は,内傾が必要な理由についてお伝えしていきます.スキー教程では,「静的内傾維持」と「動的内傾促進」という言葉が使われていますが,内傾の必要性を理解することはスキーヤーにとって必須です.
そこで,この記事では力学的なスキーの特性に基づいて,ターン中に内傾するということがどのような影響を与えるのか解説していきたいと思います.
ターン中の内傾運動について
ターンの目的
スキーヤーに働く力
内傾の定義
内傾の必要性
に焦点を当てて考えていきます.
ターンの目的
突然ですが,スキーヤーはなぜターンをするのでしょうか.「爽快感があるから」「方向を調整するため」などが考えられますが,1番重要なターンの目的は「スピードをコントロールするため」です.
そして,ターンを物理的に成功させるために内傾が必要なのです.ここで,物理的に成功させるというのは「系の力がつりあった状態」とすることにします.簡単に言えば,安定している状態です.詳しくは,こちらのコラムをご覧ください.
さて,今回は内傾の必要性の話でしたね.スキーヤーは内傾の度合いによって「ターン弧の深さ」「雪面からの抗力」「雪を削る量」を調節することができるのです.以上を,スキー教程の言葉を使って理解してます.
★静的内傾維持
=ターンの成功に必要な内傾を維持し続けること
★動的内傾促進
=ターンの成功に必要な内傾に加えて,その度合いを変化させることによりターン弧の深さ・雪面からの抗力・雪面を削り取る量を調節すること
スキーヤーに働く力

滑走中のスキーヤーには,「重力」「遠心力」「雪面からの抗力」がはたらきます.このうち,重力は常に地球の中心向き,遠心力はターンの外側向きの力になります.詳しくは,こちらの記事をご覧ください.
内傾の定義

3つの体軸を雪面の垂直面からの角度として,以下のように定義します.
●角度a:軸A(エッジ)の角度
●角度b:軸B(外脚と腰の中心)の角度
●角度c:軸C(外脚と頭の中心)の角度
ここで,内傾とは「角度a>角度c」である状態と定義します.そして,みなさんおなじみの内倒は,「ほぼ角度a≦角度c」である状態と定義します.
ちなみに,軸Bは外肩を通るのが理想的だとされています.

内傾の必要性

内傾が必要な理由は,「遠心力につりあうような重心位置に移動するため」です.その方向は,上の図で左に移動する量と下に移動する量が多ければ多いほど,深い内傾になります.
また,内傾の深さは板をよりたわませるためにターン弧を深くします.

同時に,雪面からの抗力を得やすい方向にエッジングを強くする働きもあります.雪面に食い込ませる方向にエッジングを強めることで,より強い力で雪面からの力を受けることができます.

まとめ
[1]”日本スキー教程.” 山と渓谷社(2018)
[2]”スキーの科学とスノーボードの科学.” 岡部(2017)