この記事は,(準)指導員検定で出題される分野を網羅的にまとめるものです。指導員検定対策の目次は以下をご覧ください。

今日はスノースポーツの医学に関してお話しするぞい。
ん?なんか大学の授業みたいちゃう?
医「学」と言ってしまえばそう聞こえるのも無理はないな。しかし,身体の仕組みを理解することで,スキー技術の向上だけでなく,いざというときに活躍する知識を得ることができるのじゃ。
救急法
スノースポーツには怪我がつきものです。私たちが少しの知識を身につけるだけで救える命がたくさんあります。ケガ人を助けるための救急法は,救急隊に引き継ぐまでの一次救命処置(BLS:Basic Life Support),二次救命処置(ALS:Advanced Life Support),応急処置(FA:First Aid)のことを指します。
私たちが救急法を実践するために,まず前提として以下のことに気をつけなければなりません。
●自分自身の安全の確保
●二次災害の防止
●医薬品は使用しない
●死亡の診断を行わない
呼吸がないケガ人の場合

実際に呼吸がないケガ人を発見した時には
「安全確認→119番/AED依頼→胸骨圧迫(30)/人工呼吸(2)→AED→胸骨圧迫(30)/人工呼吸(2)」
というフローをたどります。このときに,呼吸の回復が確認できた場合には,窒息しないように気道を確保した横向き体位の「回復体位」をとらせます。また,感染症防止のために,血液を直接触らないことや感染防護具を使った人工呼吸を心がけましょう。
打撲や骨折などの場合
打撲や骨折など外傷の急性期であるケガ人を発見した場合には,RICE処置が推奨されています。
【RICE処置】
●Rest(安静)
→患部の腫脹(※)や損傷を防ぐために安静・固定させます。
●Ice(冷却)
→二次的低酸素障害(※※)を防ぐためにアイシングを行います。
●Compression(圧迫)
→内出血や腫脹を防ぐために圧迫を行います。
●Elevation(拳上)
→腫脹の軽減のために患部を心臓より高く挙げます。
部位ごとの外傷・障害
ここからは,身体の部位ごとに外傷や障害について見ていきましょう。
頭部の外傷

頭部の怪我の場合には,繰り返してしまうと致命傷になる可能性が高いです。脳震盪では,自覚症状に加えて客観的なバランステストも行う必要があります。外国と比べて日本のヘルメット着用率は低く,たとえレジャースキーだとしてもヘルメットを着用することは必須です。
肩・上肢の外傷

肩・上肢の怪我は圧倒的にスノーボーダーに多いです。種類としては肩関節脱臼・鎖骨骨折・肘脱臼・橈骨遠位端骨折・母子MP関節靭帯損傷などが挙げられます。橈骨とは肘から手首にある2本の骨(尺骨・橈骨)のうちの1つです。手から転倒した際に受傷します。また,ストックを持ったまま手から転倒すると,親指の付け根の関節(MP:Metacarpo Phalangeal)の尺骨側の靭帯を損傷してしまいます。
脊髄の外傷

頭部の外傷と同じく,ジャンプの着地時に受傷することが多いです。重症になることが多く,専門医による早急な対応が必要です。
下肢の外傷

こちらの記事でもお伝えしている通り,スノースポーツの怪我は膝が多い(約3割)です。その中でも,膝前十字靭帯(ACL)が多い(約3割)です。ACL損傷の原因としては,初心者のPhantom foot(後傾で膝が外反・内旋する)や,スキーのトップが雪面にひっかかることなどが挙げられます。
他にも,カービングスキーの発達により,セルフステアリング効果(ラディウス[=回転半径]やトーション[=捻れ],板のたわみなどの板の性能によりスキーが回転していくこと)によってスキー板が制御不能になり受傷する場合もあります。
ACLと同時に受傷しやすい部位としては半月板が挙げられます。半月板は膝のクッションやバランス性を保つために重要な役割を果たしています。一昔前までは,損傷部位を切除してしまうことが多かったのですが,現在では術後の回復を見据えて縫合することが多くなっています。
膝の怪我としては,脛骨高原骨折(膝の関節内の骨折)も起こります。特に骨が弱い中高年に多く見られる怪我です。
まとめ
今日はスノースポーツの医学面に関してお伝えしたぞい。
少しゾッとしたよぉ。驚かさないでくれい。
想像するとゾッとするが自分の身に起きてからでは遅いのじゃ。指導者として怪我の仕組みを理解しておかないと,適切な処置ができないだけでなく,不適切なレッスンを行ってしまう場合があるのじゃ。指導者としては,他人の人生を棒に振る可能性が常につきまとっていることを念頭におかなければいけないぞい。
[1] ”日本スキー教程.” 山と渓谷社(2018)
[2] ”スキーの科学とスノーボードの科学.” 岡部(2017)