かつての昔から多くの議論がなされてきたスキー指導法ですが,今日では日本スキー教程がスキー指導の指導方法を公開しています。日本スキー教程によると,スキーのターン性能・スキーヤーの運動特性・自然/斜面/地形の特性・アルペンスキー競技規則等を考慮・実践していく指導法だとされています。
そこで,この記事では日本スキー教程[1]の指導法を簡単にまとめていきたいと思います。
日本スキー教程によるパラレルターンについてまとめていきます
指導員対策記事に関しては,こちらのリンクより目次をご覧ください。
今回は,みんなが基礎パラからパラレルターンへと発展させるための指導の流れを説明するぞい。
楽しそう!
ようやくじゃな。ぜひ楽しんでいってくれい!
これまでの流れ

初歩動作編(記事はこちらのリンクから),基礎パラ編(記事はこちらのリンクから)で説明した通り,あのカッコいいパラレルターンを習得するためにはズラしを主体とした基礎パラレルターンをベースにして滑りを発展させていかなくてはなりません。
上の図にある通り,パラレルターンへのカギは「ターンの制御」「斜面対応」「カービング」「レース対応」の4つです。大切なのは,「基礎パラレルターンからどのようにしてカービングターンができるのかという原理」です。以下で詳しく見ていきますね。
ターンの制御
ターンの制御のためには,「ターン弧」「傾き」「リズム」「スピード」をコントロールする必要があります。それぞれみていきます。
ターン弧
ターン弧の調整は,板をたわませることによって行います。では,どのようにすれば板はたわむのでしょうか。それは,「角付けを強める」ことで可能になります。板をたわませるためには,板に荷重するための足場が必要です。そのためには,雪面に対して強いエッジングをしなくてはなりません。角付けを強めた結果,板に足場が生まれ,そこに垂直に荷重することで板にたわみが生まれ,ターン弧が深くなります。
傾き
傾きに関しては「静的内傾維持」「動的内傾促進」「内傾左右変換」の三点を使い分けます。まず,静的内傾維持と動的内傾促進に関しては,こちらの記事で解説しています。簡単に言えば,緩斜面や雪質が緩んでいるなどで外力が得られにくい状況では静的内傾維持,急斜面やオンピステなどで外力を得やすい状況では動的内傾促進を利用します。
内傾左右変換は,いわば「切り替え」に相当します。切り替えには本当に色々な流派があるため,一概には言えませんが,教程内では体幹をベースにした切り替えを推奨しているようです。少し難しい言葉を使えば,内傾左右変換を行うための原理は,雪面からの抗力によって生じるトルク(モーメント)を打ち消すことです。
ターン後半では上体が山側に残らないように注意するわけですが,そのためには強い門付けによる雪面からの抗力が必要だということです。強い抗力が得られれば,山側方向へのトルクが発生し,それを打ち消すような形で谷側方向への内傾左右変換が行われるのです。
切り替えのニュートラルポジションを通過すれば,今度は全く逆のことが起きます。雪面からの抗力は谷側方向へのトルクを発生させます。それを打ち消すように山側方向へのトルクを発生させようとし,ターン前半の「軸」が作られるのです。
リズムの制御
大回りと小回りを連続的に行えるような身体の使い方を意識します。小回りでは上体の固定,大回りでは落差と動的内傾促進を意識して,カービングによる速度推進を目指します。場合によっては,速度制御を行う場合もあります。
スピードの制御
スピード制御は,回旋を伴ったズラしを利用して行います。急斜面では,板を回し込んで(回旋)落差を調整することでスピードをコントロールします。特に,加減速のコントロールを練習することはコブ斜面での安定した滑りに繋がります。
斜面対応
パラレルターンでの斜面対応としては,「不整地」「斜面変化」「雪質」が挙げられます。それぞれ見ていきましょう。
不整地
基礎スキーの醍醐味と言っても過言ではない不整地。大会や検定で作られるような規則的なコブから,自然に形成されたナチュラルバーンまで,幅広いバリエーションを楽しめることが基礎スキーヤーとしての楽しみであり,喜びでもあります。
不整地への対応のポイントは,滑りのべースが整地の小回りにあるということを理解できているかです。基本的な動きは整地であろうと,不整地であろうと変わりません。特に不整地では外力が目まぐるしく変わりますから,「対処」を続ける滑りではコブを滑りきることは難しいでしょう。常に数コブ先を見ながら次の動きを「先出し」しながら滑ることが求められます。
指導の流れとしては,整地での基礎パラの三本矢のうち「横滑り」を主に利用します。前半では,コブの裏側を削りながらスピードコントロールします。後半では,脚の吸収動作を利用しながら重心を積極的に谷に運んでいってポジションを修正します。その結果先落としが起こります。
指導者として,整地小回りは整地小回り,不整地小回りは不整地小回りと分けて教えることはナンセンスでしょう。かならず,整地の滑りとリンクさせることで受講者の理解を促しましょう。
斜面変化
斜面変化では,いわゆるウェーブやクニック(緩斜面から急斜面となる変化)に対応する技術が求められます。一方で,人工的なウェーブなどを用いて,ペダリング操作(ウェーブの頂点にブーツが到達するまでトップを上げて先落としをする練習)などを行いコブの先落としを練習するキッカケにもなります。
雪質
パウダースキーもスキーヤーの楽しみの1つです。雪質がパウダーで足場がなければ,密脚スタンスで面を感じながら滑ります。少しでも足場が感じられれば,外スキーの角付けを利用しながら滑ります。
カービング
実は,カービングには「速度推進」だけでなく「速度制御」の働きもあります。そのため,指導者としてはカービングの導入方法からしっかりと理解して,ターンスピードの推進・制御へと進める必要があります。
カービングの導入
まず,カービングの基本姿勢をおさえましょう。カービングでは,くの字姿勢が基本になります。とは言っても,ハイスピード域でのターン後半に出てくる「タメ」を伴ったくの字姿勢ではありません。斜滑降の姿勢で停止し,腰からエッジングを強める動きをすれば,自然とくの字姿勢が出来上がります。(実は,腰からエッジング+前傾でくの字姿勢は現れます。)
カービングはエッジングを行うことで初めて可能になります。ですので,カービングでは,この自然なくの字姿勢がベースとなります。そして,このくの字姿勢から内傾をとることでターンが始まります。内傾については,以下の記事をご覧下さい。

レース対応
レーシングには,ターンスピード・落下スピードを早めるためのエッセンスがたくさん詰まっています。種目は大きく「滑降」「スーパー大回転」「大回転」「回転」とがあります。ここでは,パラレルターンを洗練させるための要素として「大回転」と「回転」を扱います。
大回転
大回転(Giant Slalom)は,いわゆるGS用と呼ばれる板を使用して,要求されたターンことリズム変化に対応する能力を養います。ターン数は標高差によって決定されるようにFISの競技規則で定められています。(「標高差に対して11〜15%のターン数」など)
浅回りでは直線的にゲートを通過しますが,深回りでは谷回りをゲートより前で作り,山周りでゲートを通過するようにしてターンが膨らむのを防ぎます。
回転
回転(Slalom)は,いわゆるSL用と呼ばれる板を使用して,要求されたターンことリズム変化に対応する能力を養います。ターン数は標高差によって決定されるようにFISの競技規則で定められています。(「標高差に対して30〜35%のターン数」など)
回転では,ゲートの組み合わせによって大回転以上に様々なターン弧の変化・リズム変化が求められます。以下のように,基本的には回転ではポールとポールの間を通過してゴールを目指します。なるべく早く降りたいため,内側のポールのすぐ外側を通るようにします。

他にも,以下のように「ヘアピン」と呼ばれるような水平ゲート2組によるコンビネーションや,ターンの切り替えポイントに水平ゲートを挟んで減速要素を作る「ディレート」,垂直ゲート3〜4組によって作られる「ストレート」などがあります。

まとめ
今回は,みんなが基礎パラからパラレルターンへと発展させるための指導の流れを説明したぞい。
途中少し難しかったよー。
まあまあそう言わずに。ワシも少しアツくなってしまったぞ。勘弁してくれい。
[1] ”日本スキー教程.” 山と渓谷社(2018)